フィードバック管理の作り方

目次

フィードバック管理の立ち位置

定番のDevOpsの図からすると、「運用」と「計画」、この場合の「計画」は次の商談(=追加機能など)になるわけですが、「運用」と「計画」をつなぐ重要なポジションにあるものが「継続的フィードバック」であり、継続的フィードバックの仕組みが、本章の「フィードバック管理」です。フィードバック管理を軽視すると、億単位の賠償金が生じたり、借金として背負うこともありえるので、軽視しないこと。

フィードバック管理の役割

ユーザーからの意見や要望を受け取り、開発プロセスに反映させることを継続して行うことが必要とされます。フィードバック管理は、変化の多い昨今のビジネスや世界情勢において、お客様が企業であれば、競争力を高めることに貢献し、お客様が自治体や政府機関であれば、公共サービスの価値向上や維持に貢献することになります。

そのために必要な最低限の項目として、

  • ユーザーからの意見や要望をデータベースで管理すること。

  • 上記を開発プロセスの「issue (作業)」に紐づけることができること。

  • 障害対応の場合は、ユーザーとのコミュニケーションを記録に残せること。記録に残しておくことで裁判になったときのエビデンスにもなる。

これらを満たす仕組みを導入する必要があります。表計算ソフトの場合、3つの記録に残すことについて、表計算ソフト内の「セル」あたりの文字数制限は容易に超えるため、表計算ソフトを好む人はおおいですが、不向きです。専用の仕組みを導入しましょう。

ビジネスの場合は、チャーンレートについて、知っておこう

チャーンレートとは解約率のことで、広く使われる指標にカスタマーチャーンレートがあり、これは、次の式で求めることができます。

カスタマーチャーンレート(解約率) = 一定期間内に解約した顧客数 ÷ 期間前の総顧客数 x 100

カスタマーチャーンレートは、毎月 3%未満とすることが、ビジネス成長に必要とされます。フィードバック管理を行い、顧客からのフィードバックを新規の開発や機能追加に反映させるとともに、障害対応など顧客満足を高め、解約率を抑えることに、フィードバック管理の役割(=カスタマーサクセス)があります。

カスタマーチャーンレート以外にもレベニューチャーンレート、ネットレベニューチャーンレートなどがあります。

カスタマーサクセスを支えるフィードバック管理の仕組み

ユーザーから意見や要望を受け取る方法

  • 電話

  • メール

  • チャット

  • SNS

  • フォーム

  • 掲示板

ユーザーの意見や要望を管理し、開発プロセスに反映する方法

  • Webhookを使ってAPIをもとに、データベースに、issue ( 作業のこと。チケットとも言う。) に登録し、進捗を管理する。

    • この場合のデータベースは、Jira Service Management ( 旧 Jira Service Desk ) や Redmine、FreeScout のこと。

    • 受け取る手段

      • 電話

        • 電話の場合は、音声を文字お越しするサービスの併用が必要。

      • メール

      • チャット

        • Slack、Mattermost、Chatwork など

      • SNS

        • Twitter、Instagram、Salesforce Community Cloud など

          • サービスを利用する人だけを集めたSNSやSNS内のグループを作ることで、意見や要望を集めやすくする。

  • メールやフォームに回答した結果を、データベースで管理する

    • この場合のデータベースは、Jira Service Management ( 旧 Jira Service Desk ) や Redmine、FreeScout のこと。

  • 掲示板への投稿を開発プロセスに活かす

    • この場合の掲示板は、Github Discussions や Discourse のこと。Discourse は、Web3 におけるDAO構築の仕組みとしても使われることがあるため、昨今利用者が多い。

フィードバック管理に必要な人材

フィードバック管理に携わる人材として代表的なものとして、次のものがある。実験的にプロジェクトや中小企業の場合、この3つの立場を1人で兼任するようなこともある。

  • CE ( Customer Engineer )

    • フィールドサポート、テクニカルエンジニアとも呼ばれる。

    • IT/DXシステムの導入支援や、システム保守の他、問い合わせ対応を行う。

  • CSM ( Customer Success Manager )

    • 主な役割

      • サービスの定着に向けたオンボーディングの実施 >> トレーニング、FAQの作成と公開、マニュアルや利用ガイドの整備

      • ユーザー(=お客様、顧客)とのコミュニケーション

        • カスタマーサポートの責任者の面がある。

      • サービスに関するユーザー会やコミュニティの支援

  • PSE ( Post Sales Engineer )

    • 主な役割

      • 障害対応

      • 障害対応や利用状況の各種データを分析し、改善策や活用方法の提案。サービス定着のためのデータサイエンティストとも言える。

      • 新サービスや新しい機能が出る際に、サービスの既存ユーザーに向けて提案を行う。

ツール例

フィードバック管理全体をまとめるツール

Atlassian Cloud : Jira Service Management

開志専門職大学情報学部の学生の場合は、2年生の必修授業、API実習で触れていますので、ここでの解説は割愛しますが、フィードバック管理を手軽に構築できる手段の1つとして、AtlassianのJira Service Management が代表的なソリューションとなります。現在、会社を経営しているか、起業を考えていて、フィードバック管理の仕組みがなければ、候補して検討しても良いでしょう。

無料プランでは、フィードバックに対応する従業員は3名ですが、フィードバックのためのサポート問い合わせ対象となる顧客については、無制限に登録することができます。

Github Discussions

Github Discussionsを使うことで、Githubリポジトリにおけるコミュニティを構築します。Markdown形式で文章を書く必要があります。

Discussionsの有効化

Githubのリポジトリで、「Settings」をクリック。「General」の画面で下に移動。

「Features」下の「Discussions」にチェックをいれる。

Github Discussions : 最初の投稿の作成

「Set up discussions」をクリック。記念すべき、1つ目の投稿を作成します。よくあるコミュニティに初めて参加する人向けのガイドラインのようなものです。Githubでは英語が使われることが多いので、自動生成される文章も英語になっていますから、自分で日本語に直しています。「Preview」タブをクリックすることで、投稿された場合にどのように表示されるか確認することができます。

最初のdiscussion(=投稿)を作成

入力後、「Start discussion」をクリックします。

1つ目の投稿が作成されました。画面下にコメント欄がありますので、コメントを投稿し、スレッドのように扱うことができます。

Github Discussions の投稿一覧表示

「Discussions」タブをクリックします。下図のようにGithub Discussionsによるコミュニティが構成されます。「New discussion」をクリックすることで、新しい投稿を作成することができます。

Github Discussions : 「New discussion」を使った、投稿手順

「New discussion」からの新規投稿時に、どんなことを投稿するか、投稿の種類を選びます。フィードバックの場合は、「General」や「Ideas」が良いでしょう。ここでは、「Ideas」の「Get Started」を選んでみましょう。

作成済みの「issue」や「pull request」「discussion(=既存の投稿)」と、「#」と番号を記述することで、リンクを貼ることができます。投稿には、「Start discussion」をクリックします。

「Start discussion」をクリックして投稿された際の表示。例として、作成済みの「issue」にリンクを張った。画面下にコメント欄があるので、コメント欄を使って議論ができる。

「Discussions」タブをクリックすることで、すべての投稿が確認できます。

Githubにログインしていない状態でのGithub Discussions の表示

プライベートリポジトリを使っている場合

page not found になります。

パブリックリポジトリを使っている場合

Github Discussionsにアクセスは出来ますが、「New discussion」が表示されないので、閲覧のみです。

Github Discussionを使うことで、Github上で、様々な課題やトラブル、新機能追加などについて議論するコミュニティを構築することができます。

FAQの作成と公開、マニュアルや利用ガイドの整備

Github Wiki

パブリックリポジトリを使っている場合は、「Wiki」機能が使用できます。Github上のリポジトリ内で使用できる機能で、「Wiki」は、よくある質問であるFAQやマニュアル、利用ガイドの公開に向く。画像をアップロードする際には、Github上のリポジトリに含んでしまえば良い。

Wiki 機能の有効化確認

パブリックリポジトリ作成時に、「Wiki」機能が有効になります。

もし表示されていない場合は、Githubのリポジトリで、「Settings」をクリック。「General」の画面で下に移動。

「Features」下の「Wiki」にチェックが入っているか確認しましょう。

最初のページの作成

Github上のリポジトリで、「Wiki」のタブをクリックし、「Create the first page」をクリックする。

「Create new page」の画面が表示される。マークダウン形式で入力していく。入力後、「Save page」をクリックすることで公開される。しくみとしてはシンプル。もし、公開前に誰かに確認してもらうような場合は、WordPressなどのCMSを使うか、後述のAlfresco、あるいはConfluenceを使用することが望ましい。特にConfluenceは、人の生命を扱う業界でも採用されているので、実績は多い。

Notion

Notionは、SaaS形式の情報共有サービスです。学生や教職員の場合は、学校で使っているメールアドレスを使うことで、有料のパーソナルProプランを無料で使うことができます。以下から登録ができます。

教育のためのNotion : https://www.notion.so/ja-jp/product/notion-for-education

Notionは、情報共有やファイルを添付して公開することもできます。

Notionは、とても簡単ですので、実際に使ってみましょう。また、NotionにはAPIがありますので、IoTデバイスや他のクラウドプラットフォーム、クラウドサービスとの連携が可能です。

Atlassian Cloud : Confluence

現在、ご覧になっているこのコンテンツは、ConfluenceのStandardプランを契約し、Confluence上で執筆し公開しています。

Confluence 製品情報 : https://www.atlassian.com/ja/software/confluence

顧客接点の作成

顧客(=お客様)と会話できる仕組みを作っておくことは、顧客の安心感の醸成と信頼を高めるとともに、言った言わないなどの争いを事前に抑える効果があります。どのような手段があるか、いくつか手段を紹介します。

但し、自治体や企業によって、「ゲーム」や「エンタメ」のようなキーワードが連想されるものは、不安感を高めることがあり、いくら無料であっても、自分が使っているとなっても、不信感や嫌悪感を高めることになります。たとえば、「Discord」よりも「Facebook Messenger」の方が好まれた例があります。今まで「ゲーム特化型チャットサービス」のような紹介のされ方をされてきたためか、仕事に使い難いことがある。「ゲーム特化」は、仕事に向かないのような見方がある。つまり、あなた自身が良いと思っても、顧客(=お客様)があなたと同じとは限りません。

顧客(=お客様)が、チャット等のSaaS 利用を組織(企業、自治体、学校、病院等)として許可している場合

いくつか例を紹介します。

  • Chatwork

    • SaaS形式で提供あれ、無料プランがあります。ビジネス向けチャットサービスとして使われてきた実績があるため、信頼している企業や自治体が多いことも特徴。

  • Discord

    • 基本的に無料で使える、チャット・メッセージングサービス。Slackは90日経過した投稿は非表示になるので、Slackが使えない時の代替手段の1つ。多言語対応で、日本語表示に対応している。今まで「ゲーム特化型チャットサービス」のような紹介のされ方をされてきたためか、仕事に使い難いことがある。「ゲーム特化」は、仕事に向かないのような見方がある。

顧客(=お客様)が、チャット等のSaaS 利用を組織(企業、自治体、学校、病院等)として許可していない場合

あなた自身がホワイトペーパーを作り、チャット等のSaaS利用を許可するように説得(=マーケティング活動)を行うことで、チャット等のSaaS利用を促すことを検討しても良いでしょう。このケースでは、自分たちの組織(企業、自治体、学校、病院等)が、SaaSやPaaS等のクラウドサービスを使用する際に、データセンターを指定してくることがあります。クラウドサービスの利用に消極的なことがみられます。

このケースでは、IaaSを使い、IaaS上で顧客専用のチャットサービスを構築し、保守運用を代行することを提案すると、話にくいつきやすいです。

IaaS上で稼働するチャットサービスをいくつか紹介します。

  • Mattermost

    • Freeプランは、「Self host」のみ。つまりIaaS上で動かすことのみに対応。Slackは90日経過した投稿は非表示になるので、Slackが使えない時の代替手段の1つ。多言語対応で、日本語表示に対応している。

  • NextCluod

    • 「Self host」、つまりIaaS上で動かすコラボレーションツール。多言語対応で、日本語に対応している。NextCloudの基本機能の1つに「Talk」機能があり、ビデオ会議ができる。顧客(=お客様)との情報共有用に環境構築し、日々のコミュニケーションに利用すると良い。

参考資料